2003 年、スペインで16 の研究グループが地中海食と心血管疾患(CVD)高リスク者における長期の予防 効果を調べるための研究を開始しました。この研究はPREDIMED と呼ばれ、7,400 人以上のCVD 疾患の リスクが高い中高年を対象に2011 年まで実施されました。
PREDIMED 及びそれ他の地中海食の効果を検証した研究結果はどれも有意性を示し、心血管疾患を 抑制するというポジティブな結果が確認されただけでなく、体重管理、糖尿病、メタボリックシンドローム、 精神疾患などの分野でも効果があることが確認されました。
3 月にメルボルンで開催されたオーストラリア・ナッツ・カンファレンス2017 の参加者たちは、地中海食 に詳しい2 人の著名な研究者から直接話を聞く機会に恵まれました。
スペインのロビラ・イ・ビルジリ大学の生物化学・生物工学学科所属で、栄養学専門のJordi Sals-Salvado(ジョルディ・サル-サルヴァド)教授はPREDIMED から得られる世界的インサイトについ て語りました。
また、メルボルンのラ・トローブ大学の医療学部長で、地中海食研究における第一人者の Catherine Itsiopoulos 教授は、ナッツについての最新の研究やオーストラリアの現状について説明し ました。
ここでは地中海食の主な効果と、地中海食に毎日のナッツ消費が加わった場合に着目した効果を 見ていきたいと思います。
地中海食とは
地中海食は、その名の通り地中海に面した国々で伝統的に実施されているヘルシーな料理法やレシピを 含む食生活全般を指します。
この地域で最も多く食べられているのが植物で、野菜、フルーツ、全粒穀物、豆類、ナッツ、種、ハーブ、 スパイスなどが含まれます。また、魚介類の消費も多く、食事時には適量のワインを飲みます。その他の 赤肉、加工肉食品、ミルク、乳製品、単糖は少量のみ消費し、油はオリーブオイルを使うのが特徴です。
PREDIMED について
PREDIMED の対象となったのは、55〜80 歳の男性と60〜80 歳の女性を合わせた約7,400 人で、被験者は 以下の3 群のいずれかに無作為に割り付けられました。
低脂肪食群 エクストラバージンオリーブオイルを加えた地中海食群 ナッツ類30g を加えた地中海食群 地中海食群は、食生活全般を変更するよう指導されたため、特定の食品や栄養素について効果を見るよ うな設計ではありませんでした。
強力な効果が次々と明らかに
エクストラバージンオリーブオイルを加えた地中海食群とナッツ類30g を加えた地中海食群については、 CVD 疾患、糖尿病、メタボリックシンドローム、精神疾患について効果があることが実証されました。主な 内容は以下の通りです。
- 心臓血管系における抗炎症作用
- 心疾患イベントの減少(心筋梗塞、脳卒中、心血管死を含む)
- 地中海食の摂取と負の相関があったCVD リスク要因は糖尿病、高血圧、脂質異常症及び肥満
- 腹囲の数値減少(特に糖尿病患者)
- 低脂肪食群と比較して、体重減少や運動量の増加なしに糖尿病発生率の低下
- インスリン耐性(抵抗性)の改善
- メタボリックシンドロームの減少。メタボリックシンドロームとは、糖尿病、脳卒中、心臓疾患を増加さ
せるいくつかの身体的条件のことで、肥満、高血圧、高トリグリセリド値、HDL(善玉コレステロール)
値の低下、インスリン耐性(抵抗性)などを含む。
- 全体的な脳の健康の改善及び加齢に伴う認知低下(アルツハイマー病や認知症含む)の予防
- 2 型糖尿病や肝臓ガンのリスクを高める肝脂肪の改善
最近、オーストラリアで実施された研究(SMILES Trial, Jacka, Opie et al 2017)では、オリーブオイルとナッツ を加えた地中海食は鬱病の発症抑制に効果があることが分かりました。
Itsiopoulos 教授の説明によると、 鬱病と診断された患者のうち地中食を取り入れた群は鬱の症状が32%軽減したのに対し、 通常の治療を受け食生活を変更しなかった群は8%しか軽減しなかったという結果が出ています。 地中海食への忠実性が高いほど、鬱や不安に対するスコアが低くなる傾向にあり、これは 有意な結果と言えます。
地中海食とナッツの同時摂取はさらに効果あり
地中海食の効果はそれだけでも大きいですが、毎日30g のナッツ類を加えた群はさらに有意な結果となり ました。PREDIMED においてナッツ類を加えた地中海食群には、低脂肪食群とエクストラバージンオリーブ オイルを加えた地中海食群には見られなかった以下のような長期的効果が見られました。
心血管疾患に関わる事項
- 血液凝固に関与するトロンビンという物質を阻害する組織因子経路インヒビター(TFPI)の減少
- 頸動脈内膜中膜厚とプラークの進行の遅延
- 血漿グルコース濃度(血糖値)の平均値の低下
- 最大血圧(収縮期血圧)と最低血圧(拡張期血圧)の低下
- LDL コレステロール(悪玉コレステロール)値の大幅な低下
- LDL とHDL の比率の改善
- 食物繊維摂取量の増加
- 多価不飽和脂肪(良い脂肪)の増加
体重管理に関わる事項
- BMI 値の改善
- 腹囲の減少
- ナッツ消費量と肥満及び内臓脂肪との負の相関
- 高年齢の地中海食群で、週3 日以上30g のナッツを摂取する食生活を生涯続けている場合、39%の
死亡率減少
糖尿病に関わる事項
- 糖尿病と反比例する関係(一回摂取基準量を毎週3 以上摂取している場合、1 以下の場合と比べて
糖尿病のリスクが大幅に減少する)
メタボリックシンドロームに関わる事項
- メタボリックシンドロームと反比例する関係(一回摂取基準量を毎週3 以上摂取している場合、1 以下
の場合と比べて糖尿病のリスクが大幅に減少する)
- メタボリックシンドロームの解消、特に腹囲の減少
脳の健康
- 鬱病患者の脳由来神経栄養因子(BDNF)の数値改善との有意な関係。BDNF は精神疾患と関連の
あるタンパク質と考えられており、数値が大きいほど脳の健康状態が良いとされる。
PREDIMED による効果は、研究者たちの予想を上回るものでした。これにより、食のガイドラインも低脂肪 食の提唱から野菜と良質な油をたくさん摂るような内容へと変化しています。 オーストラリアでは消費者の生活習慣にまだ大きな改善が必要です。Itsiopoulos 教授によると2015 年の オーストラリア全国内健康調査では以下のような残念な結果が報告されています。
- オーストラリア人が野菜やフルーツを摂取する量は15 年前と比べて30%減少している
- オーストラリアの成人のうち25%が平均的な1 日に摂取する野菜はゼロであり、政府が推奨す
る一回摂取基準量5 を摂取している人はわずかに7%
- オーストラリア人が1 日に摂取するナッツの量は平均6g で、推奨されている30g には全く届い
ていない
- オーストラリア人の摂取エネルギーのうち35%がケーキ、ビスケット、ソフトドリンクといった栄養
的付加価値がほとんどない高脂肪、高糖分の食品で占められている
Itsiopoulos 教授は、まず最後に述べた点から改善していくことが良い出発点になると言っています。
「まずは、通常の食事以外におやつとして食べている食品を地中海食にも取り入れられているナッツ
やドライフルーツといったヘルシーなスナック、生のフルーツやヨーグルトに置き換えるだけでもだい
ぶ改善すると思います」
PREDIMED から得られた一番の教訓は、何歳になっても食生活を変えるのに遅すぎることはないとい
うことだとサル-サルヴァド教授は語ります。「この研究は55 歳から80 歳を対象として行われました。
健康を改善するために食習慣を変える習慣は、何歳から初めても効果があります。」
PREDIMED 及びその他の研究について詳しくはこちらをご覧ください。
(Nuts For Life のサイトに掲載されている、今回のPREDIMED の調査結果の詳細が記載されている
資料にリンクされています(英文のみ)) here.