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食品や飲料の場合、フレイバー(味)ほど重要視されるものはあまりないでしょう。その商品のあらゆる良い点 を消費者に伝え、新しい商品を試してもらうことはできても、結果的においしくなければブランドへの忠誠心を 得るどころか、なんども購入してもらうことにはつながりません。
今年のオーストラリア・ナッツ・インダストリー・カンファレンスで「食品トレンドとナッツ」について、クリエイティ ブ・フード・イノベーター、かつ植物学者のヘーゼル・マクタビッシュ-ウエスト博士は、現在食品業界で注目を 集めているさまざまなテーマについて講演しました。最新のトレンドは、植物性中心の食生活、新しい形の食 品、食物繊維と腸活などが挙げられましたが、その中には消費者の探求が尽きない食の「フレイバー」につい ての話が多く潜んでいました。
カンファレンス後、当協会はヘーゼル博士にインタビューを行い、フレイバーのパワー、世界的に広まってい る“うま味”、マカダミアに合う味、今後のフレイバーのトレンド、塩キャラメルに続くヒットなどについてお話を伺 いました。
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喜び以上の存在である「フレイバー/味」
味とは食べたり飲んだりするたびに「おいしい」や「まずい」という反応をひきだすものと単純に思いがちです。 しかし、味覚は人間の行動に深い影響を与えるものです。
「太古から味と味覚は人間の生存に関わる重要なものでした」とヘーゼル博士は言います。 「最も初期の人 類は、安全に食べられるものの判断基準として味覚を利用しました。そのため、味や香りは脳の最も原始的 な部分に深く埋め込まれています。」
例えば、特定の味が安心感をもたらしたり、子供のころの感情を引き出したり、または味や香りが記憶を呼び 起こしたりするのはそのためです。
社会的観点に目を向けると、ヘーゼル博士は、フレイバーが健康を維持する上で重要な役割を果たすと考え ており、特に高齢者のグループは重要となるそうです。 「どのような味がするかにより、より多く食べたいと思 う気持ちが刺激されるので、味が大切です。 私たちの味蕾は年齢が上がるにつれ鈍感になるため、高齢の 消費者がよく食べたくなるような食品を設計することです。」
うま味と「うま味以上」
味の基本は長いあいだ甘味、塩味、苦味、酸味の4つが独占していましたが、近年は5番目の味であるうま 味についてだいぶ知られるようになりました。
ヘーゼル博士によるとわたしたちが現在経験している「うま味ルネッサンス」は、うま味の正体を解読し、うま 味のもつ何層もの魅力を発見した料理科学者たちのおかげのようです。
「うま味はグルタミン酸からきており、グルタミン酸ナトリウム(MSG)と非常に密接に関係しています。 これは MSGがなぜ人気のある食品添加物かを説明しています。つまりMSGを加えるとどんなものでもよりおいしくな るのです」とヘーゼル博士は言います。「しかし、自然にグルタミン酸を含む、うま味成分の高い食品もたくさ んあります。トマト、海藻、パルメザンチーズ、醤油などです。私たちは料理の味をワンランク上げるためにこ れらの食品を使います。例えばパスタにはパルメザンチーズを、中華料理には醤油を加えます。私たちは長 年にわたりそれらを使用してきたにもかかわらず、その理由を認識したのはつい最近です。」
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私たちの味蕾はうま味の刺激を受けると喜びますが、食材の組み合わせによっては、ヘーゼル博士が「うま 味以上」と呼ぶレベルに達することができます。
「『うま味以上』のもっとも良い例は日本にあります」とヘーゼル博士は言います。 「味噌汁によく使われる出 汁と呼ばれる日本のスープストックがあり、このだしは食物の中でも最高のうま味成分を持つ昆布やかつお ぶしを含んでおり、これが『うま味以上』を引き出しています。この 2つの成分を組み合わせると信じられないく らいおいしいのです。世界でもっとも美味しいものだと言う人もいるほどです。」
「うま味以上」を引き出す他に組み合わせとして、卵とベーコン、チーズとハム、牛肉とトマトなどがあります。 なぜハンバーガーにはトマトソースが欠かせないのかというと、「人々はケチャップの中の砂糖が肉を美味しく 感じさせると思っていますが、実はトマトと牛肉の組み合わせが味を良くしているのです」とヘーゼル博士は 語ります。
世界的な味の融合
オーストラリア・マカダミア協会が依頼した「 世界の食料と飲料の動向に関する調査 」では、現代人の「飽くこと なく新しいフレイバー/味を求めるシンドローム」によって、グローバルに食品と伝統が融合し、新しい味や他 国の繊細な味を取り入れた新製品が続々と生まれていることが明らかになりました。
ヘーゼル博士もこの調査結果と同意見であり、消費者は珍しい味についても具体的に語るようになってきたと 言います。「例えば、消費者は『アジアの味』と大雑把に話すのではなく、『タイの味』と『韓国の味』を区別して 話します。また、唐辛子のことを単に『チリ』というのではなく、『ハラペーニョ』や『ハバネロ』といった単語を使 うようになりました。」
このような味の融合はスーパーマーケットの棚に置かれる商品にも影響を及ぼしており、例えば唐辛子とフル ーツといった、驚くような味の組み合わせの商品が注目を集めたりします。このように他国の味を取り入れる ようになったのは人々の飽くことのない欲求の表れです。
「今、英国はアメリカ、メキシコ、ジャマイカの味に目を向けています。オーストラリアはアジアにインスピレーシ ョンを求めるのが好きですね」とヘーゼル博士は分析します。 「アジアの消費者は、非常にスパイシーな風味 や西洋のトレンド、例えば塩キャラメルなどにますます関心を寄せています。また、現在世界中で人気なのが インドの風味です。ターメリックとシナモンといったスパイスの台頭により、インド料理とそれがもたらす健康上 の利点へ注目が集まっています。 消費者は単に『インド料理』と括るのではなく、北インドなどの特定の地域 の料理を識別しています。」
ヘーゼル博士は、インド料理の人気と植物性食品の増加にある相関関係にも注目しています。 「インドでは 香りとスパイスの文化は成熟を見せており、これらの風味はベジタリアン料理に非常によく合います。」
マカダミアと合う味はまだ広がる
数々の調査結果およびSNSでの洞察を通じて、消費者はマカダミアが甘いスイーツでも塩味のレシピでもど ちらでもおいしく食べられる、と思っており、殻を剥いてそのまま食べたり、シンプルにローストしたり塩をかけ たりしてマカダミアを楽しんでいます。そのうえ、マカダミアはどんな味にも合うので他の味を引き立てる土台 としても最適です。
当協会はヘーゼル博士のような食の専門家がマカダミアからどのような革新的なフレイバ ーを作り出すかに大変興味を持ちました。
ヘーゼル博士によると、現在世界で最も革新的な味を創りだしているのはスナックのカテゴリーです。 しかし ヘーゼル博士は、スナック製品におけるマカダミアの使い方に関しては、開発の余地が大きいと思っています。 「マカダミアは本当にさまざまな味と合わせることが可能です」と博士は言います。 「マカダミアのバターベース の風味には柑橘系の果物やローズマリーやラベンダーのようなハーブとの相性も良いでしょう。この二つのフ レイバーは現在オン・トレンドです。」
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ヘーゼル博士はまた、世界的人気を得ているインド風味の中にマカダミアのイノベーションの大きな可能性を 見ています。
「ターメリック、ジンジャー、シナモン、マスタード、チリのようなインドのスパイスは、マカダミアと組み合わせる と大変印象的な味となるでしょう。」
「また、より伝統的な味ですが、本当に満足のいくスモーキーテイスト、ハチミツ、チーズのフレイバーを(一度 に全部でなければ)重ねることも素晴らしい結果をもたらすでしょう。海藻もいいでしょうね。 海藻にはうま味と ミネラルが豊富に含まれているため、あらゆる種類のカテゴリーに利用されることが予想されます。」
それでは、新分野を開拓したいと考えている製品開発者たちに、ヘーゼル博士は何を推奨するでしょうか。
「近年盛り上がっている発酵食品のトレンドに大きな可能性があると思います。 アップルサイダービネガーは 液体だけでなく粉末の形でも入手可能であり、私はそれが次のターメリックになるかもしれないと思っていま す。 ローストして塩漬けしたマカダミアにアップルサイダービネガーパウダーの層を加えたら素晴らしいくおい しいでしょう。」
次の流行は…
最近多くの製品カテゴリーと市場を支配している人気フレイバーをひとつ選ぶとするならば、それは塩キャラメ ルでしょう。しかし、次に流行るものは何でしょうか。
「ラベンダーなどのフローラル・フレイバーのトレンドが生まれつつあります」とヘーゼル博士は言います。 「フ ローラル・フレイバーは非常に複雑で他とは違う風味なので大変興味深いです。またわさびに続いてトレンド となりそうなのがマスタードです。マスタードには唐辛子のようにいくつかの大きな健康上の利点があり、パン チを効かせるために多く使うことも、香りづけのために控えめに使うことも出来ます。」
実はヘーゼル博士が最も注目しているのは、スモーキーなバーベキューと調理済みの肉の味です。 意外に 思うかもしれませんが、これは植物中心の食事がムーブメントになっているのがきっかけです。
「ビーガンやベジタリアンの人数は増えていますが、まだ市場のごく一部です。それよりも肉の摂取量を減らし ながらも完全に排除していない人が増えたため、その影響が大きくなっています。 代替肉製品を多く目にする ようになっている理由は、一般の消費者がより簡単に切り替えを行なっているからです。」
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ヘーゼル博士は 2018年チャーチル・フェローシップ・レポートで指摘したように、「肉を食べないことを選択す る人の中には、肉の味、食感、および満足感が好きな人もいます。 したがって、まるで肉のような食品を開発 することはフレキシタリアン(野菜中心の食生活だがたまに肉や魚も食べる人)のニーズを満たすには非常に 重要です。この目的を達成するために味つけは非常に重要になり、肉のような味にするために良く使われる のがスモーキー、ペッパー、バーベキュー、うま味などの風味です。」
ヘーゼル博士はこの動きをナッツ生産者にとって大きなチャンスだと考えています。 「私はナッツがスナック以 外に使われることを強く望んでいます。 代替肉は、豆類や大豆でなくても良いのです。ナッツを食事の中心と して捉え、ナッツバーガーや1970年代に発売されたナッツローストなどの革新的な製品を開発するべきだと 思います。より多くの製品開発者がこの挑戦に取り組むことを私は望んでいます。」
味のトレンドがどこへ向かうにしろ、開発者にとっても消費者にとっても魅力的な未来が待っています。 マカダミアと革新的なフレイバー/味を組み合わせた新製品を開発されている場合、ぜひ、ご紹介させてください。
また、当協会が主催したマカデミア・イノベーション・チャレンジにもユニークな味を使った製品コンセプトが多くあります。 ご関心のあるかたは当協会の望月英子までお問い合わせください。 www.mactavishwest.com.au