オーストラリアのマカダミア産業界のインフルエンサーを集めたユニークなイベント、マカダミア・コンサルタ ント・フォーラムが今年も開催され、大きな成果を生み出しました。
毎年開催されるこのイベントは、オーストラリアの主なマカダミア産地から複数の専門家を集め、2日間に 渡り最新の技術やテクノロジー、イノベーションについて学ぶ場です。
過去のコンサルタント・フォーラムでは、現在広く実施されているIOM(Integrated Orchard Management総 合農園管理)やION(Integrated Orchard Nutrition総合農園栄養学)といった業界をリードする画期的な プログラムが提案され、拡大するきっかけとなりました。
今年のイベントでは、総合害虫管理プロジェクト(Integrated Pest Management)や「小さな木から高い生産 性プロジェクト」の研究を推進している科学者たちが農園管理者やマカダミア・コンサルタントを前に講演を 行いました。
このイベントの趣旨は未来のマカダミア産業拡大のために最新イノベーションや改善方法を探求すること で、オーストラリアが世界のマカダミア生産量のトップの座を維持することを目標としています。また、2018 年度の生産量を現在の1ヘクタール当たり2.4トンから3.5トンに増加することを掲げた業界の目標値に近 づけるために開催されています。
データを重視した、積極的な害虫・病害対策管理プログラム
今年のフォーラムでは、データを重視し、積極的な害虫・病害対策を行うための管理プログラムを業界全 体で推進するという提案が強い支持を集めました。この中で、害虫・病害対策を行う上で生産者にとって重 要なのは「モニタリング」、「タイミング」、「カバレッジ」であることが確認されました。
まず、モニタリング(監視)を強化することにより、農園での害虫被害について理解が深まり、データと照合 することで農作物にとって有益な虫を守り持続可能なエコシステムを維持しつつ、農作物の被害を低減す る対策を取るためのベストのタイミングを決定することが可能となります。
タイミング(時期)を改善することによりキャノピー管理(林冠の伐採など)も改善され、それによってカバレ ッジ(森林被覆率)も大幅に改善されます。産業にとって、適切な大きさの樹木による最適な被覆率を確立 することが、広範囲において生産性を改善するための重要な鍵となります。
将来有望な「小さな木から高い生産性」プロジェクト
クイーンズランド州農水省のジョン・ウィルキー博士によって「小さな木から高い生産性プロジェクト」に関す る研究の初期成果が発表されました。ウィルキー博士が率くこのプロジェクトは、園芸関係の研究プロジェ クトとしてはオーストラリアでは近年になかった大規模なものです。
このプログラムは、樹木の密度、剪定、設計、伝統的な育種など様々な方法で樹木を操作することによっ て、1ヘクタール当たりの作物収穫量を増加するのを目標としており、現在、密集栽培された3年目のマカ ダミアから商業的に利用可能な量の収穫に成功しています。これは、植樹から収穫まで5年から8年かか ると言われている現状に比べると大きな改善です。
ウィルキー博士はこう説明しました。「マカダミアの能力の高さに驚いていますが、まだ始まったばかりの試 みなので、長期的にこの密集システムがうまくいくかどうかまだ分かりません。」
「重要なポイントのひとつとして、今回の実験でうまくいったのはA203種だけであり、741種はうまくいきま せんでした。他の種は現在実験中です。この結果は、密集栽培システムがうまくいくかどうかの大きな要素 は種の種類にあることを示唆しています。」
「現在、1ヘクタール当たりの収穫量の違いは密集度合いでも、剪定でもなく、主に種の違いです。今後は 違う結果が出てくるかもしれませんが、初期段階では種が一番大きく影響しています。」
ウィルキー博士によると、引き続きプロジェクト内で生産性を観察すると同時に、キャノピー内の光、木の 構造や設計、樹木当たりの実など、生産性に関する様々な要因を観察する予定です。
「これらの研究により生産性に影響を与える様々な要因についての理解を深めたいと思います」とウィル キー博士は語りました。
「小さな木から高い生産性プロジェクト」は、ホーティカルチャー・オーストラリア・イノベーション社*が共同 出資をしており、ニューサウスウェールズ州主要産業省もパートナーとして参加しています。
分子生物学に秘められた可能性
このプロジェクトに参加している分子生物学者でクイーンズランド大学教授のフランソワ・バルビエ博士か らは、マカダミアの開花直前に分子構造のどこにいつサインが現れるかに関する研究の予備的調査結果 の発表がありました。
これら分子生物学の分野での研究も大きな可能性を秘めており、開花が目に見える前の分子レベルでの 変化を理解する助けになるでしょう。
マカダミア・モデリングによる育成法革命
クイーンズランド大学の農業と食料に関するクイーンズランド連合の科学者であるイニゴ・アウズメンディ 博士からは新しい考え方といわれる「マカダミア・モデリング」についてのプレゼンテーションが行われまし た。
このモデリングは、大規模で予算のかかる実験を実施する前にコンピュータ上でシミュレーションが可能と なるコンピュータ・プログラムです。
「科学者はいろいろな状況を仮定することができます。例えば、大型剪定機を導入したらどうなるか、特定 の枝を切った場合どうなるか、全く剪定をしない場合はキャノピーと収穫にどう影響するか等のシナリオを シミュレーションできます。」
このようなモデリングはオーストラリアのブロードエーカー農場や穀物栽培では既に採用されており、マカ ダミア栽培への導入が進めば育成法に大きな影響を与える可能性があります。
未来を見つめて
コンサルタント・フォーラムは、オーストラリアのマカダミア産業が農場の改善と生産者教育に積極的に関 わるための戦略の一環として実施されています。グローバル市場で競争力を保つため、研究調査に長期 的な投資を行うことは非常に重要であり、オーストラリアがマカダミアの生産として世界のリーダーであり 続けるためには、農園の生産性を上げ、確実な供給を確保することが重要な鍵となります。
*「亜熱帯および熱帯樹木の生産性の変換(Transforming subtropical/tropical tree crop productivity (AI13004))」は、ホートカルチャー・イノベーション・オーストラリア社が政府からの財源支援を受けて設立 した「アボカド、マカダミアおよびマンゴ基金」から出資を受けています。